「自分磨きをしたい」、「人間性を高めたい」という時に、自己啓発本やビジネス書をおすすめされる場合が多いように感じられます。
そのような本を読むことが悪いとは思いません。しかし、小説や新書、時には学術書をひとつ読むことで、自己啓発本を何冊も読むよりも大きな成長を実感できるようなこともあります。
そこで、今回は、自分自身の価値観を変えて、成長を促せるような書籍をご紹介したいと思います。
難しそうな本に挑戦してみる
一見、難しそうだと敬遠しがちな本を手に取ってみると、思わぬ発見があるかもしれません。
読む時のポイントは、分からなくても次に進むということです。難しい箇所はとりあえず飛ばして、前後の文との関係を考えて、全体をとらえます。すると、意味が理解できるようになります。
また、同じ本を繰り返し読むことも、内容を把握するうえで大切です。一度読んだ本でも、時間を置いてから読むと、また新たな発見があるものです。
新書や小説を読むメリット
昔の小説や、新書といった”レベルの高い本”を読むメリットに、次のようなことが挙げられます。
- 言葉遣いを学べる
- 丁寧な表現を学べる
- 難しい漢字が読めるようになる
- 使える語彙が増える
- 読解力が鍛えられる
- 想像力が養われる
相手の言葉を正確に理解する、自分の考えを相手にわかりやすく伝える、ということは、普段の日常生活やビジネスシーンでも活きる能力です。
また、さまざまな状況・境遇にある人に思いをはせる想像力を磨くことで、仕事上の取引・職場内の関係部署との調整などがより上手にできるようになります。
『源氏物語』
『源氏物語』は紫式部が書いた長編の物語です。
『源氏物語』というと、光源氏の華やかな恋愛が注目されがちですが、その周りの登場人物たちの人生に注目すると、「昔の人もこんなことで悩んでいたのかな」と共感できるところも見つけられます。
たとえば、玉鬘という登場人物。彼女も数奇な運命をたどった女性の一人です。
玉鬘は幼いころに母親を亡くし、乳母に連れられて九州で育てられます。美しく成長した後、様々な男から言い寄られ、無骨で浮気心のある男との結婚がまとまりかけますが、それが嫌で九州から京に逃れます。
その後も、養父となった光源氏に言い寄られたり、嫌っていた男に力づくで妻にされてしまったりと、心を悩ませることが絶えません。
周りの男たちに翻弄されながらも、それでも何とか自分の人生を切り開こうとする玉鬘には心を打たれる思いがします。
『戦争と平和』
『戦争と平和』は、ロシアの作家、トルストイによる長編小説です。
ナポレオンが活躍していた19世紀末のロシアを舞台にして、激動の時代の中で生きるロシア貴族たちの姿が描かれます。
登場人物は500人を超えると言われますが、物語の中心となる人物の一人がピエールです。
莫大な遺産を手にした彼は裕福であるものの、生き甲斐を見つけられません。財産を目当てに近づいてきた絶世の美女、エレンと結婚しますが、自分でも何かしっくりときません。
「ああ、それをお取りになって……それを……」彼女は眼鏡を目で示した。
ピエールは眼鏡をはずした、するとその目は眼鏡をはずした人の目に共通の奇妙さに加えて、おびえたような、けげんそうな表情をおびた。彼は彼女の手に顔を近づけて、接吻しようとした。ところが彼女はすばやい乱暴な顔の動きで彼の唇を求め、それに自分の唇をおしつけた。彼女の顔は見苦しいほどうっとりとした表情に一変して、ピエールをびっくりさせた。
『いまとなってはもうおそい、すべてがおわってしまったのだ。それに、おれは彼女を愛しているのだ』とピエールは思った。
「<ぼくはあなたを愛します>」このような場合に言われねばならぬ言葉を思い出して、彼は言った。しかしこの言葉のひびきがあまりにもうるおいがなかったので、彼は自分が恥ずかしくなった。
※『戦争と平和』(訳:工藤精一郎、新潮文庫、1972年、495~496ページ)
ピエールはその後、フリーメーソンという秘密結社に加入したり、ナポレオンを暗殺しようとしたりと、どのように生きるかを模索し続けます。
読者はピエールに自分自身を重ねることで、彼が紆余曲折を経て最終的に見出す人生の価値について、より身に迫って感じられるはずです。
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